COSMOSIL PBr C18(ODS)カラムでは分離困難な親水性化合物(ニコチンアミド代謝)の一斉分離
全ての生物種に含まれている補酵素のニコチンアミド類をコスモシール PBr カラムで分離することができましたので、紹介します。
なお、本記事は以下論文の解説記事です。
- 誌名:
Analytical Biochemistry. 2022, 655, 114837.
https://doi.org/10.1016/j.ab.2022.114837 - 誌名:
MethodsX, 2023, 10, 102061. (オープンアクセス)
https://doi.org/10.1016/j.mex.2023.102061
はじめに
ニコチンアミド類について
ニコチンアミド類は補酵素の一種であり、糖尿病・認知症・がんなどの老化関連疾患への関与が報告されているサーチュイン遺伝子の活性化に関係しています(図 1)。サーチュイン遺伝子を活性化させることで、ミトコンドリアのエネルギー生産やテロメアの保護作用が向上すると考えられています。その中でも、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)はがんの抑制や老化防止に効果があるとされており、健康食品やサプリメントなどが販売されています。そのため、NMN を含めたニコチンアミド類をバイオマーカーとした分析技術の確立が求められています。
(下記画像をクリックすると拡大します)
図 1. ニコチンアミド類の合成経路
1. NAMN |
2. NMN |
3. ATP |
4. IMP |
5. NR |
6. Cytidine |
---|---|---|---|---|---|
7. NA |
8. NAD+ |
9. Inosine |
10. NADH |
11. NAM | |
しかしながら、ニコチンアミド類は親水性が高く、疎水性相互作用を利用して分離する C18 カラムでは保持が小さいため、各化合物を分離することができません。弊社が開発したペンタブロモベンジル基を修飾した PBr カラムは強い分散力を有しており、逆相クロマトグラフィーで親水性化合物の分離が可能です。そこで、PBr カラムを用いて、ニコチンアミド類の合成に関与する 11 種類の化合物の一斉分離を試みました。
C18 カラムと PBr カラムを用いたニコチンアミド類の分析
Condition | |||
---|---|---|---|
Column | COSMOSIL 3C18-AR-Ⅱ, 3.0 mm I.D. × 150 mm COSMOSIL 3PBr, 3.0 mm I.D. × 150 mm |
Sample |
*. 成分不明 |
Mobile phase |
A; Methanol / 20 mmol/L Phosphate Buffer(pH 7.0) = 5 / 95 |
||
Flow rate | 0.4 mL/min | ||
Tempera ture |
40℃ | ||
Detection | UV 260 nm | Inj. Vol. | 1 µL |
コスモシール PBr カラムを用いることで、C18 カラムでは分離することが難しいニコチンアミドの合成に関与する 11 種類の化合物を簡単なグラジエント条件で分離することができました。
PBr カラムを用いた LC-MS によるニコチンアミド類の分析
食品や生体サンプルの分析の際には、目的物と不純物とのピークが重なることが懸念されるため、LC-MS や LC-MS/MS などを用いて、目的物と不純物の識別を行います。LC-MS の分析においては、各化合物を揮発させて検出するため、移動相に不揮発性の塩が含有した緩衝液などを使用することができません。そこで、LC-MS の分析に使用することができる移動相を使用して、UV 検出下においても良好に各化合物を分離することが可能かを確認しました。
移動相: 緩衝液をりん酸系からぎ酸系に変更
※ 移動相にりん酸緩衝液を使用した場合(上記「 C18 カラムと PBr カラムを用いたニコチンアミド類の分析」参照)と比較すると、りん酸緩衝液での溶出順は、4. IMP → 3. ATP → 7. NA → 5. NR ですが、ぎ酸緩衝液では 3. ATP → 7. NA → 4. IMP → 5. NR となり溶出順が異なっています。
Condition | |||
---|---|---|---|
Column | COSMOSIL 3PBr, 3.0 mm I.D. × 150 mm | Sample |
*. 成分不明 |
Mobile phase |
A; Methanol / 20 mmol/L Ammonium Formate = 5 / 95 |
||
Flow rate | 0.4 mL/min | ||
Tempera ture |
40℃ | ||
Detection | UV 260 nm | Inj. Vol. | 1 µL |
移動相の変更により、溶出順に変化は見られましたが、ニコチンアミドの合成に関与する 11 種類の化合物を分離することができました。
つづいて、LC-MSを使用し、上記と同様の条件で各化合物を良好に検出することが可能かを確認しました。
Condition | |||
---|---|---|---|
Column | COSMOSIL 3PBr, 3.0 mm I.D. × 150 mm | Sample |
|
Mobile phase |
A; Methanol / 20 mmol/L Ammonium Formate = 5 / 95 |
||
Flow rate | 0.4 mL/min | ||
Tempera ture |
40℃ | ||
Detection | MS | Inj. Vol. | 1 µL |
PBr カラムを用いることで、分子量の差が 1 である NAMN と NMN に加えて、計 11 種類のニコチンアミド類をりん酸系(上記 「C18 カラムと PBr カラムを用いたニコチンアミド類の分析」参照)、ぎ酸系の 2 種類の移動相で分離することができました。
PBr カラムを用いたニコチンアミド代謝物の検出限界
濃度の異なるニコチンアミド類を UV 検出器で分析した際のピーク形状と検量線
Condition | |||
---|---|---|---|
Column | COSMOSIL 3PBr, 3.0 mm I.D. × 150 mm | Sample |
|
Mobile phase |
A; Methanol / 20 mmol/L Ammonium Formate = 5 / 95 |
||
Flow rate | 0.4 mL/min | ||
Tempera ture |
40℃ | ||
Detection | UV 260 nm | Inj. Vol. | 1 µL |
濃度の異なる 3 種類のニコチンアミド類を分析したところ、直線的な検量線を作成することができ、NAM は 50 µM、NMN は 25 µM、NAD+ は 10 µM まで検出することが可能でした(注入量を増加させれば、数 µM 以下の濃度においても分析可能です)。また、濃度を低下させても、それぞれの化合物由来のピーク形状も良好でした。
サンプルの前処理
食品や生体サンプル中の NMN の分析
NMN の含有量が多いことが報告されているトマトおよび HEK 293 を例として細胞中のニコチンアミド類を PBr カラムを用いて分析しました。
Condition | |||
---|---|---|---|
Column | COSMOSIL 3PBr, 3.0 mm I.D. × 150 mm | Sample |
|
Mobile phase |
A; Methanol / 20 mmol/L Ammonium Formate = 5 / 95 |
||
Flow rate | 0.4 mL/min | ||
Tempera ture |
40℃ | ||
Detection | MS | Inj. Vol. | 1 µL |
LC-MS で分析した結果、トマトおよび HEK 293 細胞中に含有している NMN やその他代謝物を検出することができました。