Strep-tag®/ Strep-Tactin®タンパク質発現・精製システム
IBA社のStrep-tag® / Strep-Tactin®タンパク質発現・精製システムについてご紹介します。Strep-tag® / Strep-Tactin®システムはミュンヘン工科大学のArne Skerra博士のグループが開発した、迅速で経済的なシステムです。溶出時のバッファーを温和な条件に設定できるので、精製が困難なタンパク質の溶出が可能になります。
特長
- タグの認識特異性が高いので、純度95%以上の高純度タンパク質の回収が可能
- 緩和な条件で精製できるので、精製タンパク質は活性を保持
- バッファーの組成を選ばない
- 再利用が可能なゲルで経済的
原理
本システムはストレプトアビジンとビオチンの強力な結合を応用したシステムで、ストレプトアビジンのビオチン結合部位へ結合能を持つ8アミノ酸からなるStrep-tag® IIペプチドと、このペプチドに対する結合能を最適化したストレプトアビジンの遺伝子改変体Strep-Tactin®との相互作用に基づく精製システムです。このStrep-tag® IIとStrep-Tactin®の結合は、ストレプトアビジンとの結合と比較し100倍近く強力です。また、タンパク質はビオチンのアナログ化合物であるデスチオビオチンを生理的条件下の緩衝液に添加することで溶出され、温和な条件で高純度のタンパク質の精製が可能です。
精製例1
■ 膜タンパク質・メタロプロテインの精製例
通常イオン交換やゲルろ過など複数のステップを必要とする膜タンパク質複合体の精製(パネルA)や、ほかの精製システムでは精製が困難な金属イオン(Mn2+およびMg2+)を含むメタロプロテイン(パネルB)に関しても、ワンステップで精製が可能です。
精製例2
■ 膜タンパク質の精製
テトラサイクリン誘導発現ベクターを用いて、大腸菌発現システムにより、Strep-tag®-グリシンベタイン輸送体(BetP)を大腸菌により発現させました。発現後の細胞をフレンチプレスにより破砕、遠心し、膜画分を回収しました。回収した膜画分から界面活性剤により可溶化し抽出したStrep-tag®-BetPをStrep-Tactin®精製レジンにより精製しました。SDS-PAGE後のゲルは銀染色(Lane 1~6)とウェスタンブロッティングにより検出しています。
■ 精製した膜タンパク質の機能確認
Strep-Tactin®により精製した溶出画分のStrep-tag®-BetPをリン脂質膜に埋め込んだプロテオリポソームを用いて、精製したBetPタンパク質の機能を試験しました。14C標識されたグリシンベタイン(●)、プロリン(□)、エクトイン(○)をプロテオリポソームに添加後、リポソーム内に取り込まれた同位体レベルをカウントしました。精製したStrep-tag®-BetPは、本来の基質であるグリシンベタインを特異的に輸送することが示されています。
精製例3
■ キナーゼの精製
アデノウイルスを用いた発現システムにより、以下のStrep-tag®-キナーゼを293細胞により発現させました。細胞のライセートから、融合タンパク質をStrep-Tactin®精製レジンによりワンステップで精製したサンプルについて、SDS-PAGEを行いコロイドCBB染色法により検出しました。RIPキナーゼに見られる複数のバンドは、hsp90、cdc37、cdk4、raf1から形成される複合体などのタンパク質が共精製されたものです。
精製例4
■ カスパーゼ3の精製
hUH7細胞(ヒト肝臓細胞株)由来のCPP32 cDNAをpASK-IBA3に組み込み、C末端 Strep-tag® II融合タンパク質を大腸菌で発現させました。その大腸菌を破砕し、遠心分離により上清を回収し、Strep-Tactin®精製レジンで精製しました。洗浄ステップは5回、溶出ステップは6回行いました。
*カスパーゼ3(32kDa)は自己消化や大腸菌のプロテアーゼによりp17とp12に分解されます。
アプリケーション例
精製したタンパク質は、活性測定などのアッセイをはじめ、結晶化、構造解析、機能解析、抗体産生が可能です。また、タンパク質を失活させないような条件で精製すれば、タンパク質-タンパク質相互作用、タンパク質-DNA相互作用、リガンド-受容体相互作用、生細胞の再培養目的での選別も可能です。
トランスポータータンパク質(精製例2)
→ 膜への再埋め込み、グリシンベタインのトランスポートアッセイ
高感受性のキナーゼ(精製例3)
→ タンパク質の自己リン酸化、Flashplateアッセイ、キナーゼアッセイ
レジンの特長
Strep-tag®融合タンパク質の精製は薬剤耐性の範囲内でお好みのバッファー組成が利用でき、レジンからの溶出はデスチオビオチンを添加するだけです。温和な条件で精製可能ですので、精製タンパク質の活性保持にも有効です。また、レジンの再生*は目視で確認することができます。
*スピンカラムタイプや磁気ビーズタイプの製品はStrep-tag® II融合タンパク質をビオチンにより溶出させるのでHABAによる再生はできません。
■ Strep-Tactin®レジンのタンパク質精製サイクル
Strep-Tactin®レジンは、3~5回の再生に耐えられます。
レジンの再生には指定された組成の再生用バッファー(HABA含有)、HABA溶出のための洗浄用バッファーを使用してください。
ステップ1-2:お好みのバッファー組成
ステップ3:お好みのバッファー組成にデスチオビオチンを添加したバッファー
ステップ4:指定の再生用バッファー組成
ステップ6:指定の洗浄用バッファー組成
*通常、ステップ6で使用するバッファーは、組成:100mM Tris-HCl pH8, 150mM NaCl, 1mM EDTAのバッファーを使用しますが、Strep-Tactin® Superflow high capacityタイプのレジンの場合、100mM Tris-HCl pH10.5, 150mM NaCl, 1mM EDTAによる処理が必要です。
レジンの種類
Strep-Tactin®レジンには、以下の表に記載のように、精製方法に応じた製品があります。目的の精製方法に応じた製品を選択してください。また、Strep-Tactin® Superflow high capacityも追加されています。本製品は、従来のStrep-Tactin® Superflowよりもキャパシティーが高く、Hisタグタンパク質の精製に使用されるニッケルレジンよりも優れたキャパシティーを持ち、かつ高純度に精製可能です。各担体のプレパックタイプも用意しています。
■ Strep-Tactin® Superflow high capacityのニッケルレジンとの収量および純度比較
■Strep-Tactin® Superflowと high capacityタイプの収量比較
担体のタイプ | 精製方法 | キャパシティー | 流速 | 溶出限界 |
---|---|---|---|---|
Strep-Tactin® Sepharose |
自然落下 | 50~100nmol/ml | ≦30cm/h | 3×107 |
Strep-Tactin® Superflow |
自然落下, 低圧, FPLC/HPLC |
50~100nmol/ml | ≦300cm/h | 6×106 |
Strep-Tactin® Superflow High capacity |
自然落下, 低圧, FPLC/HPLC |
150~500nmol/ml | ≦300cm/h | 6×106 |
Strep-Tactin® MacroPrep® |
自然落下, 低圧, FPLC/HPLC |
50~100nmol/ml | ≦300cm/h | 1×106 |
MagStrep Magnetic Beads Type3 |
バッチ |
1~3nmol/μlビーズ |
n.a. | n.a. |
レジンの薬剤耐性
Strep-Tactin®は耐薬剤性が非常に高いタンパク質であるStreptavidinの誘導体なので、バッファーの組成を選びません。
■ Strep-Tactin®レジンの適合薬剤
薬剤 | 濃度 |
---|---|
Reducing Reagents | |
DTT | 50mM |
β-Mercaptoethanol | 50mM |
Non-Ionic Detergents | |
C8E4; Octyltetraoxyethylene | ≦ 0.88% |
C10E5; Decylpentaoxyethylene | 0.12% |
C10E6; Decylhexaoxyethylene | 0.03% |
C12E8; Dodecyloctaoxyethylene | 0.005% |
C12E9; Dodecyl Nonaoxyethylene (Thesit) | 0.023% |
DM; Decyl-β-D-maltoside | 0.35% |
DDM or (LM); N-Dodecyl-β-D-maltoside |
2% |
Digitonin | 0.5% |
NG; N-Nonyl-β-D-glucopyranoside | 0.2% |
NP40; Nonidet P40 | 2% |
OG; N-Octyl-β-D-glucopyranoside | 2.34% |
TX; Triton X-100 | 2% |
Tween 20 | 2% |
Ionic Detergents | |
N-Lauryl-sarcosine | 2% |
8-HESO; N-Octyl-2-hydroxy-ethylsulfoxide | 1.32% |
SDS; Sodium-N-dodecyl Sulfate | 0.1% |
Zwitter-Ionic Detergents | |
CHAPS; 3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate |
0.5% |
DDAO; N-Decyl-N,N-dimethylamine-N-oxide | 0.034% |
Fos-Choline-12 | 0.1% |
LDAO; N-Dodecyl-N,N-dimethylamine-N-oxide | 0.13% |
Others | |
Ammonium Sulfate (NH4)2SO4 | 2M |
Calcium Chloride CaCl2 | ≦ 1M |
CHS; Cholesterol hemisuccinate | 0.1% |
EDTA | 50mM |
Ethanol | 10% |
Guanidine | ≦ 1M |
Glycerol | ≦ 25% |
Imidazole | ≦ 250mM |
Magnesium Chloride MgCl2 | 1M |
Sodium Chloride NaCl | 5M |
Urea | ≦ 1M |
GAPDH-Strep-tag®の精製を、上記濃度の薬剤を含むバッファーで行い、精製がうまく行えた濃度を記載しています。リガンドとレセプターとの結合は個々のタンパク質の立体構造による接近のしやすさによりますので、タンパク質によっては許容濃度が上記値と異なることがあります。
価格表
別容量も用意しています。
担体を、自然落下やFPLC/HPLC用の各種プレパックカラムに充填した製品を用意しています。
Strep-tag® II融合タンパク質の精製および担体の再生に必要な試薬です。推奨される組成にあらかじめ調製したバッファーも用意しています。
・洗浄用バッファー
精製時の洗浄および担体再生時に使用するHABAを担体から解離*させるためのバッファーです。
1×時の組成:100mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 1mM EDTA, pH8
製品名 |
メーカー | 容量 |
オンライン |
---|---|---|---|
Strep-tag® washing buffer(10×Buffer W) |
2-1003-100 |
100 ml |
・溶出用試薬
デスチオビオチンは、磁気ビーズタイプやスピンカラムタイプ以外のStrep-Tactin®精製レジンに結合しているStrep-tag® II融合タンパク質の溶出に使用します。調製済みの溶液タイプと粉末タイプを用意しています。
磁気ビーズタイプやスピンカラムタイプ用には、ビオチンを含む溶出緩衝液を用意しています。
・再生用バッファー
Strep-Tactin®精製レジンに結合したD-Desthiobiotinを解離させ、担体を再生するために使用します。
1×時の組成:100mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 1mM EDTA, 1mM HABA, pH8.0
・バッファーセット
洗浄用バッファー、溶出用バッファー、再生用バッファーをセットにしています。
セット内容:10×洗浄用バッファー(100 ml)、10×溶出用バッファー(25 ml )、10×再生用バッファー(100 ml)
製品名 | メーカー 製品番号 | 容量 | オンライン カタログへ |
---|---|---|---|
Strep-tag® protein purification buffer set(10×concentrated buffers) |
2-1002-001 | 1 set |
・その他
ビオチン化タンパク質やビオチンのStrep-Tactin®精製レジンへの結合を抑制するために使用します。
Strep-tag®検出用抗体などの周辺試薬も用意しています。詳細につきましてはお問い合わせください。
・通常クローニングベクター
2種類の宿主細胞向けに、2種類の基本ベクターにシグナル配列の有無、N末タグ2種類、C末タグ2種類の組み合わせで、合計24種類のベクターを用意しています。実験目的に合わせてお選びください。組み合わせの詳細は、IBA社Web site(https://www.iba-lifesciences.com/classic-cloning-vectors.html)をご覧ください。
宿主 | プロモーター | セレクション | シグナル配列 |
---|---|---|---|
大腸菌 | tet | Ampr |
Omp A or なし |
CATr |
Omp A or なし |
||
哺乳類細胞 |
CMV | Ampr, Neor |
なし |
N末タグ |
---|
Strep-tag® II |
6×Histidine-tag |
なし |
C末タグ |
---|
Strep-tag® II |
6×Histidine-tag |
なし |
通常クローニングベクター全製品
容量:5 μg
価格:弊社オンラインカタログ e-Nacalai(https://www.nacalai.co.jp/ss/ec/EC-srchtop.cfm) で検索してください。
・StarGate®システム用ベクター
Entry Vectorは1種類。Acceptor Vectorは4種類の宿主向けに、7種類の基本ベクターに、シグナル配列の有無、N末タグ5種類、C末タグ4種類の組み合わせで、合計162種類を用意しています。実験目的に合わせてお選びください。組み合わせの詳細は、IBA社Web site(http://www.iba-lifesciences.com/tl_files/uploads/bilder/produkte/stargate/AcceptorVectorTable.pdf)をご覧ください。
宿主 | プロモーター | セレクション | シグナル配列 | Ori P/ EBNA |
---|---|---|---|---|
大腸菌 | tet | Ampr |
Omp A or なし |
なし |
T7 | Ampr | なし | なし | |
哺乳類細胞 |
CMV | Ampr, Neor |
BM40 or なし |
なし |
あり | ||||
昆虫細胞 | Polyhedrin | Ampr | BM40 or なし | なし |
酵母菌 | CUP1 | Ampr | なし | なし |
N末タグ |
---|
FLAG®-tag |
Strep-tag® II |
Twin-Strep-tag® |
6×Histidine-tag |
GST-tag with PreScission™(PSC) site |
なし |
C末タグ |
---|
FLAG®-tag |
Strep-tag® II |
Twin-Strep-tag® |
6×Histidine-tag |
なし |
StarGate® Acceptor Vector全製品
容量:5 μg
価格:弊社オンラインカタログ e-Nacalai(https://www.nacalai.co.jp/ss/ec/EC-srchtop.cfm) で検索してください。
以下は各社の商標または登録商標です。
MacroPrep®:Bio-Rad Laboratories, Inc.
StarGate®、Strep-tag®、Strep-Tactin®、Twin-Strep-tag®:IBA GmbH
PreScission™:GE Healthcare UK Ltd
FLAG®:Sigma-Aldrich biotechnology LP and Sigma-Aldrich Co.
※記載の内容は、'16年8月現在の情報に基づいております。