ナカライテスク株式会社

脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)

  • その他クロマトグラフィー

脂肪酸の GC 分析に必要な前処理であるメチル化を効率よく行うための手法を紹介します。従来法のように高温で反応させる必要がないため、安全で簡便に脂肪酸をメチル化することができます。

関連製品 : 脂肪酸メチル化キットはこちら

特長
  • 試料中のグリセリドの脂肪酸をメチル化
  • 室温(加熱装置不要)、短時間(攪拌 3 秒、 静置 10 秒)で反応
  • 簡易分析に最適
  • 加熱しないため揮発性の短鎖脂肪酸にも適用可能
  • 簡便な操作

 

分析対象

  • グリセリド(トリグリセリド,ジグリセリド,モノグリセリド,レシチンなどのグリセロ脂質) ※遊離脂肪酸、ステロールエステル、スフィンゴ脂質には適用できません。 本製品は、グリセリドの脂肪酸組成の測定に適した製品です。全構成脂肪酸(スフィンゴ脂質を除く)を分析対象とする場合には、遊離脂肪酸やステロールエステルもメチル化できる脂肪酸メチル化キット(#06482-04)をご使用ください。
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製品説明

反応機構

グリセリドとメタノールとのエステル交換反応(メタノリシス)によってメチル化を行います。

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反応の確認

トリグリセリド(トリオレイン)10 mg を脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)を用いてメチル化しました。シリカゲル TLC において、メチル化の進行を確認し、トリグリセリドがメチル化されていることがわかりました。

  • 展開溶媒  : ヘキサン / t-ブチルメチルエーテル / 酢酸 = 92 / 8 / 0.4
  • 発色 : 50% 硫酸を噴霧後、137℃、15 分加熱。
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本データは公益財団法人 京都高度技術研究所 京都バイオ計測センター 市原 先生よりご提供いただきました。

使用方法

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  1. 油脂試料(50 mg 以下)を容器に入れます。
  2. A 液(溶解液)1.0 mL を加え、試料を溶解させます。
  3. B 液(反応液)0.1 mL を加え、ボルテックスミキサーで約 3 秒攪拌します。
  4. 10 秒から 10 分静置後、C 液(停止液)1.0 mL を加え、ボルテックスミキサーで 5 ~ 10 秒攪拌します。
  5. 静置すると 2 層に分離しますので、上層をオートサンプラーバイアルなどの別の容器に移します。
  6. GC で分析します。

※本製品はメチル化脂肪酸精製キット(#06483-94)を使用しません。

製品使用例

酒造好適米(日本晴)中の脂肪酸分析

イワシからの抽出油の脂肪酸分析

■ 試料の処理方法

  1. 乳鉢と乳棒を用いて、小形のイワシ(全体の 2/3 程度)約 10 g をアセトン 30 mL、次いでヘキサン 20 mL で抽出し、ろ過しました。
  2. ろ液を合わせて水 30 mL を加えて混合しました。
  3. 分層したヘキサン層を回収し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去しました。
  4. 得られた油から約 20 mg を脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)を用いてメチル化しました。

■ 結果 飽和脂肪酸の他、DHA や EPA などの不飽和脂肪酸を多く含むことが確認できました。

本データは公益財団法人 京都高度技術研究所 京都バイオ計測センター 市原 先生よりご提供いただきました

乳脂肪の脂肪酸分析

■ 試料の処理方法

  1. 牛乳 0.5 mL を脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)の A 液(溶解液)2 mL と混合しました。
  2. 得られた有機溶媒層 1 mL を脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)を用いてメチル化しました。

■ 結果 脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)によるメチル化は、室温で短時間であることから、酪酸メチル(4 : 0)やヘキサン酸メチル(6 : 0)などの揮発性の高い短鎖脂肪酸メチルも分析できています。

本データは公益財団法人 京都高度技術研究所 京都バイオ計測センター 市原 先生よりご提供いただきました

FAQ(よくあるご質問/トラブルシュート)

脂肪酸メチル化キット(#06482-04)と脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)の違いは何ですか?
脂肪酸メチル化キット(#06482-04)は、試料中の全構成脂肪酸(スフィンゴ脂質を除く)のメチル化が温和な反応温度(37℃)で行えます。
一方、脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)は、試料中のグリセリドを構成する脂肪酸のメチル化が、室温で短時間で行えます。遊離脂肪酸やステロールエステルは反応しません。試料がグリセリドのみ、あるいは、グリセリド以外の脂質が組成分析に影響を及ぼさない程度の微量であるならばこちらのキットをお薦めします。
「ケン化→メチル化」や「塩酸メタノール」などの従来法に対するメリットは?
従来の方法では、100℃ に加熱する必要があり、危険であるだけでなく、反応物が揮発したり変性したりするリスクがありますが、脂肪酸メチル化キット(#06482-04)と脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)はどちらも反応温度が温和なため、安全かつ上記のリスクが低減します。また、キットを使用することにより、試薬調製などの危険な作業を行う必要がないことや、廃液が低減するなどのメリットもあります。
メチル化率については、従来法と同程度以上です。いずれのメチル化キットも、最適条件では収率 99% 以上です [Anal. Biochem495, 6-8 (2016).]。
メチル化の反応機構を教えてください。
脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)では、A 液(溶解液)に溶解した試料を下記の 1 段階でメチル化を行います。 グリセリドとメタノールとのエステル交換反応(メタノリシス)によってメチル化を行います。 metirukakit_hannoukikou-siyakuB.png
なぜ、スフィンゴ脂質はメチル化できないのですか?
スフィンゴ脂質は、スフィンゴイド塩基に脂肪酸がアミド結合しているため、Q3 に記載のキットの反応機構ではメチル化することができません。
アミド結合脂肪酸は、脂肪酸メチル化キットでエステル型と遊離型の脂肪酸をメチルエステルに変換・抽出した後、メタノール層を塩酸メタノールで 100℃、数時間加熱することによってメチルエステル化できます。
遊離脂肪酸だけをメチル化することは可能ですか?脂肪酸メチル化キット(#06482-04)のメチル化試薬 B を使用せず、メチル化試薬 C だけでメチル化すれば良いのでしょうか?
脂肪酸メチル化キット(#06482-04)のメチル化試薬 C は、遊離脂肪酸をメチル化するだけでなく、メチル化試薬 B よりも効率は悪いですがエステル交換によるメチル化反応も進行するため遊離脂肪酸だけを選択的にメチル化することはできません。遊離脂肪酸だけをメチル化したい場合には、グリセリドやステロールエステルなどを分液やカラムクロマトグラフィーで除いた後、キットの使用方法に従ってメチル化してください。なお、試料が遊離脂肪酸だけの場合にはメチル化試薬 B 添加後の加温処理(37 ℃、1 hr)は不要になります。メチル化脂肪酸精製キット(#06483-94)付属のカートリッジカラムを用いて、遊離脂肪酸やその他の脂質を分画することができます。

(例 1:遊離脂肪酸の単離)
コレステロールエステル、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸、リゾ体を含むりん脂質(ホスファチジルコリンとリゾホスファチジルコリン)をそれぞれ 0.5 mg(モノグリセリドのみ 0.1 mg)含む脂質試料約 3 mg をクロロホルム 100 µL に溶解し、トリエチルアミン 4 µL を加えます。その溶液を「メチル化脂肪酸精製キット」付属のシリカゲルカートリッジのシリカゲル表面にゆっくり滴下して脂質を吸着させます。
(注)カラム内壁に試料が付かないようにしてください。そのカートリッジを減圧デシケータに入れ、15 ~ 20 分減圧にして溶媒を除去します。この試料吸着乾燥カラムに下記の溶媒を順次流して遊離脂肪酸を回収します。
①前洗浄液(または洗浄液、以下同様) 2.8 mL とアセトン 0.7 mL の混合溶媒で遊離脂肪酸とりん脂質以外の脂質を溶出させます。
②前洗浄液 2.8 mL + アセトン 0.7 mL + 酢酸 10.5 µL の混合溶媒で遊離脂肪酸を溶出させます。 遊離脂肪酸の画分を濃縮乾固して脂肪酸メチル化キット(#06482-04)を用いてメチル化反応を行います(メチル化脂肪酸精製キット(#06483-94)での精製操作は不要です)。

(例 2:脂質クラスの分画) 
例 1 の試料吸着乾燥カラムに、下記の溶媒を順次流して各脂質を回収します。
①コレステロールエステル溶出液(前洗浄液 4.0 mL + 酢酸メチル 20 µL)
②トリグリセリド溶出液(前洗浄液 3.4 mL + 酢酸メチル 105 µL)
③ジクリセリド/モノグリセリド/ステロール溶出液(前洗浄液 2.8 mL + アセトン 0.7 mL)
④遊離脂肪酸溶出液(前洗浄液 2.8 mL + アセトン 0.7 mL + 酢酸 10.5 µL)
⑤リゾ体を含むりん脂質溶出液(メタノール 6 mL) それぞれの脂質画分を濃縮乾固して脂肪酸メチル化キット(#06482-04)を用いてメチル化反応を行います(メチル化脂肪酸精製キット(#06483-94)での精製操作は不要です)。
**(試料名)に使用した例はありますか?
さまざまな試料を使用した製品使用例集を作成していますのでご参照ください。 上記の製品使用例集からご覧いただけます。
試料の前処理はどうすれば良いですか?
脂質の抽出方法については Q8 や製品の添付文書をご参照ください。e-nacalai から入手可能です。
水分を多量に含む試料の場合、凍結乾燥や減圧デシケーターでの乾燥処理が必要になります。詳細は、脂肪酸メチル化キット(#06482-04)の添付文書をご参照ください。ただし、水分量が 25 mg 以下の場合には、脂肪酸メチル化キット(#06482-04)で使用できることを確認していますので乾燥処理を行わずに直接メチル化することが可能です(例 : ミルク 25 µL、卵黄 20 µL、血漿 25 µL/上記の製品使用例集参照)。
試料からの脂質の抽出方法は?
試料によって最適な抽出方法は異なりますが、下記にトリグリセリドを主成分とする試料の例を示します(定量分析には内部標準を用いたり、抽出を繰り返したりなどの操作が必要です)。なお、試料によっては脂質抽出操作をすることなく、直接メチル化処理をすることもできます(例:Q7 記載の試料例、ポテトチップス、きな粉、マヨネーズ/Q6 の製品使用例集を参照)。
① 試料(例:魚肉、牛肉、ポテトチップス)を乳鉢などに取り、アセトンを加えて数分間すりつぶし、油脂成分と水分を抽出します。
② ろ過、遠心分離、あるいはデカンテーションによってアセトン溶液を回収します(残渣を搾って出来るだけ溶液を回収してください)。
③ 残渣にヘキサン(アセトンとほぼ等量)を加えて数分間すりつぶし、油脂成分を抽出します。
④ ろ過、遠心分離、あるいはデカンテーションによってヘキサン溶液を回収し、アセトン溶液と合わせます(残渣を搾って出来るだけ溶液を回収してください。回収が難しい場合には残渣ごと次の操作を行っても構いません)。
⑤ ④の混合溶液に水(アセトンとほぼ等量)を加えて軽く攪拌します。
⑥ ⑤の混合溶液を遠心分離して(1,000 ~ 3,000 rpm、1 ~ 3 分)、上層のヘキサン溶液を回収します。
⑦ ⑥のヘキサン溶液にその半量程度の水を加えて水洗し、ヘキサン層を回収します。
⑧ ヘキサン 1 mL あたり 0.2 ~ 0.3 g の無水硫酸ナトリウムを加えて軽く攪拌し、数分間静置して脱水します。
⑨ ろ過、遠心分離、あるいはデカンテーションによって、ヘキサン層を回収します。
⑩ ロータリーエバポレーターなどでヘキサンを減圧濃縮し、油脂試料を得ます。りん脂質などを含む全脂質の定量的な抽出には、クロロホルム-メタノール系の Bligh-Dyer 法などが用いられます。詳細は下記の総説を参照してください。
●生物工学 2012 年 第 2 号 第 90 巻 生物工学基礎講座 バイオよもやま話 「脂肪酸分析は意外と簡単」
GC 分析での検出限界は?
検出器によっても異なりますが、FID の場合、1 種類の脂肪酸メチルで 1 ng あればピークとして定量できます。検出限界は 0.2 ng 程度です。MS であれば少なくともその 10 倍は感度が上がります。
メチル化反応に使用する容器の素材は何が適していますか?
共栓試験管やネジ口試験管などのガラス容器をお薦めします。
メチル化反応の進行を確認するにはどうすれば良いですか?
シリカゲルの TLC で確認することができます。下記に TLC の例を示します。GC でも、内部標準を用いてピーク面積比から判断することはできます。
下の TLC は展開後に 50% 硫酸を噴霧し、加熱発色したものですが、より安全な 12 モリブド(VI)りん酸水和物の 5% エタノール溶液を噴霧して、120℃ で 10 ~ 15 分加熱しても濃灰青色に発色させることができます。
加熱せずに発色させる方法として、0.01% プリムリンのエタノール溶液を噴霧して 365 nm の紫外線下に蛍光を検出する方法があります。
より簡便には、少量のよう素結晶を入れたガラス瓶に展開プレートを入れて蓋をすると、数分で不飽和脂肪酸を含む脂質が黄色に発色します(気温が低いときは、よう素を昇華させるために容器を少し暖めます)。
メチル化の反応率の評価方法は?
内部標準を加え、GC 分析でのピーク面積比から算出します。
内部標準には何が適していますか?また、添加するタイミングはいつが良いですか?
測定試料中に含まれておらず、かつ測定成分と炭素鎖長が近い脂肪酸が好ましいです。例としては、マルガリン酸メチル(17:0)やヘプタデセン酸メチル(17:1)など炭素数 13 ~ 23 の奇数鎖飽和、もしくは一価不飽和脂肪酸とその誘導体が挙げられます。
脂肪酸メチル化キット(#06482-04)では、上記の脂肪酸メチルエステルに加えてグリセリドや遊離脂肪酸を使うことができます。
脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)ではグリセリドが使えます。
これら内部標準は、試料から脂質を抽出する時に加えておくと抽出時のロスなども補正できます。脂質抽出操作を行わない場合は、メチル化反応の前に加えます。また、メチル化反応終了後に加えることもできます。この場合、反応時のロスを補正できませんが、本製品は反応収率が高いので大きな誤差にはなりません。
短鎖脂肪酸にも使用可能ですか?
可能です。本製品(脂肪酸メチル化キット(#06482-04)も)は、従来法よりも温和な反応温度であるため、目的物の揮発のリスクが少ないと考えられます。使用例として、酪酸メチル(4 : 0)での測定実績があります。(例 : 牛乳、アイスクリーム、バター/上記の製品使用例集参照)。
共役脂肪酸にも使用可能ですか?
可能です。本製品(脂肪酸メチル化キット(#06482-04)も)は、従来法よりも温和な反応温度であるため、目的物の変質のリスクが少ないと考えられます。
ヒドロキシ脂肪酸にも使用可能ですか?
メチル化は可能です。ただし、メチル化脂肪酸精製キット(#06483-94)の溶出液を使用するとカラムカートリッジから溶出してきません。キット添付の溶出液は使用せず、より溶出力の強い溶媒で溶出してください。例えば、リシノール酸メチルなどのヒドロキシ脂肪酸は「アセトン / ヘキサン = 5 / 95, v / v」で溶出することを確認しています。
キットの溶液にサンプルが溶けないときの対処方法は?
サンプル量を減らすか、キットの試薬添加量を増やしてください。それでも溶解しない場合には少量のクロロホルムに溶解後、キットにご使用ください。例えば、試料 1 mg をクロロホルム 0.2 mL に溶解し、その一部または全量を用います。
メチル化脂肪酸の分析に適した GC カラムは?
ポリエチレングリコール(PEG)を液相とした WAX 系と呼ばれるカラムが第一選択肢としてよく使用されますが、シアノプロピル基を持った液相も広く使われています。また、脂肪酸エステル専用のキャピラリーカラムも発売されています。詳細は各カラムメーカーにお問い合わせください。
脂肪酸メチル化キット(#06482-04)のメチル化試薬 B が白濁したのですが、使用できますか?
メチル化試薬 B は、開封により徐々に分解しますのでなるべく早くご使用ください。また、白色沈殿が生じた場合には、上澄み液をご使用ください(白色沈殿が反応液に混入してもメチル化反応には影響はありません)。
脂肪酸メチル化キット(#06482-04)の抽出試薬、あるいは脂肪酸メチル化キット(グリセリド用)(#13246-84)の C 液(停止液)を添加後、二層にきれいに分かれませんが、どうすれば良いですか?
しばらく静置することで分離することがあります。分離しない場合やお急ぎの場合には、遠心分離(例:3,000 rpm, 2 min)をしてください。または、試料量を 1/4 ~ 1/10 に減らしてみてください。

関連資料

価格表

製品名 規格 貯法 製品番号 容量 価格

脂肪酸メチル化キット, グリセリド用(100 回用)

SP 室温 13246-84 100 tests e-Nacalai.jpg

上記製品は、月桂冠株式会社が公益財団法人 京都高度技術研究所 京都バイオ計測センター 市原先生との共同研究により特許を取得し、 ナカライテスク株式会社が許諾を得て製造販売しています。(特許第 4942380 号)

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※掲載内容は予告なく変更になる場合があります。