ナカライテスク株式会社

【コラム】
免疫染色用の細胞サンプルの準備(透過処理・ブロッキング編)

  • 他社品

細胞サンプルの準備は組織細胞染色において、目的のタンパク質の局在や染色性を左右する非常に重要なステップとなります。固定、透過処理、ブロッキングを間違うと、染色に失敗したり誤った染色になったりする恐れがあります。

ここでは細胞サンプルを準備するにあたり、透過処理とブロッキングのステップで注意すべきことをまとめています(固定のステップはこちらから)。

 

透過処理とは

免疫染色は、抗体を用いて細胞内にある目的のタンパク質を染色しますが、抗体は、通常の細胞状態では、分子として大きすぎるため、細胞膜を通過することができません。この透過処理は、抗体が細胞膜を通過して細胞内に入ることができるようにするステップになります。ただし、細胞膜表面のタンパク質を観察するのであれば、この透過処理は必要ありません。

この透過処理に使用する透過処理試薬は、メタノールやアセトン、または界面活性剤を用います。もっとも一般的に用いられている界面活性剤は、非イオン性の Triton X-100 です。Triton X-100 は注意して混和しないと泡立ちやすいので、試薬調製時には気を付けてください。より穏やかな透過処理試薬としては、ジギトニンや類似のサポニン製剤が用いられます。

なお、固定のステップでメタノールやアセトンを使う場合がありますが、その場合、透過処理は必要ありません。

透過処理試薬使用濃度インキュベーション時間主な利点主な欠点
Triton X-100 0.1 ~ 0.4% in PBS 10 ~ 15 分 入手しやすい。核膜を含む、全ての脂質二重膜を透過させる。 高濃度や長時間での作用は、細胞溶解を起こす。非選択的作用。
サポニン / ジギトニン 0.1% in PBS 5 ~ 7 分 細胞膜表面タンパク質の形態保存時に Triton X-100 の代替品として用いられる(Triton X-100 によりタンパク質変性の影響を受けることがあるため)。可逆性あり。 核膜は透過させない。
メタノール 100% 10 分 固定と透過が同時に行える。リン酸化抗原や核抗原に推奨される。 細胞膜、微小管、その他オルガネラを損傷する可能性がある。

Triton はユニオン・カーバイド・コーポレーションの登録商標です。

 

ブロッキング処理について

免疫染色は、抗体のエピトープに特異的な結合により抗原となるタンパク質を検出しています。この抗体結合には、疎水性相互作用、イオン相互作用、水素結合など、分子間相互作用の力が関与しています。これらの作用は、目的タンパク質との抗原抗体反応だけでなく、非特異的な反応にも同様に影響します。

ブロッキング処理は、バックグラウンドや偽陽性染色となる非特異反応を最小化するために行うものです。非特異的な反応は、得られる実験結果の信頼性に大きな影響をあたえます。

このステップで用いる、目的の抗原タンパク質以外のタンパク質や、使用するスライドガラスに抗体が結合しないようにコーティングする試薬をブロッキング剤と呼びます。

ブロッキング剤の種類は多数ありますが、非特異反応を最大限に抑えながら、抗原抗体反応には影響を与えないものを選択することが重要です。

 

ブロッキング剤の選択のポイント


  1. ブロッキング剤は加熱不活化処理を行った、二次抗体のホスト動物と同種動物の正常血清を用いるのが最適です。例えば、二次抗体がウサギで作られたものであれば、健康なウサギの血清を用います。代用としては、FCS や BSA、スキムミルク、カゼイン、フィッシュゼラチンなどがあります。
  2. 細胞内への抗体浸透を促進し、非特異な疎水性反応を最小化するためには、非イオン性洗剤(Triton X-100 や Tween 20 など)をブロッキング剤、希釈した抗体、洗浄液に加えることが重要です。1 × PBS に 0.1% Triton X-100 を加えた PBS-T が一般的によく使われます。
  3. ブロッキング剤に用いる溶媒のイオン強度は、抗体抗原反応に影響を与えます。生理食塩水のイオン濃度でも、反応阻害が起こることがあり、通常それよりも低い塩濃度で特異的な抗体結合率が上昇するとされています。非特異反応を下げるために、固定剤や抗体希釈液のイオン強度を強めにすることもありますが、複数のエピトープに反応するポリクローナル抗体と異なり、単一のエピトープのみに反応するモノクローナル抗体に強イオン溶媒を用いると、抗体結合率を下げてしまう恐れがありますので、使用を避けてください。

Tween はクローダ インターナショナル ピーエルシーの登録商標です。

 

ブロッキング剤の種類


正常動物血清

血清は通常、PBS-T で 5-10% に希釈して用います。間接検出法の場合、血清は二次抗体を作製した動物と同種動物の血清が最適です。例えば、一次抗体がヤギ抗体、二次抗体が抗ヤギ抗体ウサギ抗体の場合、ブロッキング剤にウサギ血清を用いると、ウサギ由来のタンパク質でブロッキングされ、これらのタンパク質に対してウサギ抗体は反応しないため、二次抗体の非特異反応を低減させることができます。

BSA(ウシ血清アルブミン)

動物の正常血清が入手できない場合に一般的に使われる代用品で、比較的安価です。BSA(Bovine Serum Albumin)は一般的に PBS-T で 1-5% 濃度に調整したものを用います。バックグラウンド低減のため、IgG フリーのものを使うようにしましょう。

スキムミルク(無脂肪粉ミルク)

ブロッキング剤として最も安価に入手できます。スキムミルクを 1% 濃度に調整したものを用います。小さな分子のため、高いブロッキング効果が得られますが、低濃度のタンパク質が検出しにくくなる(オーバーブロッキング)こともあります。リン酸化タンパク質を多く含み、バックグラウンドが高くなってしまうので、リン酸化タンパク質の検出には使用できません。

カゼイン

牛乳に含まれるリン酸化タンパク質の一種で、乳タンパク質の約 80% を占めます。基本的にスキムミルクと同じ利点、欠点を持ち、同様の使い方をします。

フィッシュゼラチン

哺乳類由来に比べて、アミノ基が少ないため、非特異結合が低減されます。ただし、目的の抗原までブロックされて検出感度が低下することもあるため、注意が必要です。また、ビオチンが含まれるため、ビオチン標識抗体を用いて検出する場合には使用できません。

高性能ブロッキング剤

上記までの基本的なブロッキング剤の欠点を補う目的で、複数のタンパク質を組み合わせたり、高分子化合物を代表に他の化合物を添加したりするなどのブロッキング剤が、試薬メーカーから販売されています。ブロッキング性能の向上や、ブロッキング時間の短縮など、目的に応じてさまざまな工夫が施されています。

Antibody_letter_3_hikaku.png
サンプル : マウス小腸パラフィン包埋切片
一次抗体 : Anti-Vimentin Rabbit Polyclonal Antibody
二次抗体 : Goat Anti-Rabbit IgG, CF™ 488A Conjugated

10% Goat Serum では小腸の輪郭にそって非特異な染色(白色矢印)が観察されますが、高性能ブロッキング剤を用いてブロッキングすると非特異な染色が抑えられています。

 

ここまでの工程を行うことで細胞サンプルの準備が整います。この後は、いよいよ免疫染色の抗体反応へとすすめていきます。

 

関連コラム

 

novus_collaboration_footer.png

※掲載内容 2021 年 6 月現在の情報に基づいています。