クロマトグラフィー
COSMOSIL PFP & COSMOSIL PBr
PFP カラムと PBr カラムの分離特性の差異について
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はじめに
さまざまなメーカーで販売されているペンタフルオロフェニルカラム(PFP カラム)と、ナカライテスク独自のペンタブロモフェニルカラム(PBr カラム)、どちらも「ベンゼン環にハロゲン原子が 5 つ結合した固定相構造」であるため、分離特性も似通ったものだと捉えがちです。しかし実際は、両者の分離特性は大きく異なり、それぞれ特徴的な分離が実現可能です。ここでは PFP カラムと PBr カラムの共通点・相違点を保持原理と実際の分離例の両面から紹介します。
PFP カラム | PBr カラム |
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PFP カラム・PBr カラムの共通点 : 逆相クロマトグラフィー用カラム
- PFP と PBr は C18 同様、逆相クロマトグラフィーで使用するカラムです。疎水性相互作用により、疎水性の高い物質を強く保持します。
- PFP カラムの疎水性は C18 カラムに比べて低い傾向があり、同じ移動相条件では保持が小さくなります。PBr カラムは C18 カラムと同程度の保持を示します。
- PFP、PBr カラムは、芳香環によるπ-π相互作用が働きます。移動相にアセトニトリルを使用すると、π-π相互作用を弱めてしまうため、注意が必要です。
各カラムにおける芳香族化合物の分析 : π-π相互作用の影響

Conditions | |||
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Column size | 4.6 mm I.D. × 150 mm | Sample | ![]() |
Mobile phase | Methanol / H2O = 70 / 30 | ||
Flow rate | 1.0 mL/min | ||
Temperature | 30℃ | ||
Detection | UV 254 nm |
PFP カラム : 双極子 - 双極子相互作用による保持を示す
- ペンタフルオロフェニル基は電気陰性度の大きいふっ素原子を持つため、電気的に大きく負に偏った部分を持ちます。これによりサンプル分子との間に双極子 - 双極子相互作用が働き、C18 や PBr カラムとは異なる分離特性を示します。
- PFP カラムは双極子 - 双極子相互作用により電気双極子モーメントの大きい分子をより強く保持する傾向があります。これにより、芳香族化合物の位置異性体の分離などで、ほかのカラムには見られない高分離を達成することがあります。
- PFP はふっ素を含む分子を保持する親ふっ素性*があることが知られており、含ふっ素化合物の分離に役立つ場合もあります。
*Zhang, W. J. Fluorine Chem. 2008;129(10):910-919.

位置異性体の分離 : 双極子 - 双極子相互作用の影響

Conditions | |||
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Column size | 4.6 mm I.D. × 150 mm | Sample | ![]() |
Mobile phase | Methanol / H2O = 50 / 50 | ||
Flow rate | 1.0 mL/min | ||
Temperature | 30℃ | ||
Detection | UV 254 nm |
PFP、PBr、C18 カラムによるジニトロベンゼン位置異性体の分析結果です。PFP カラムでは、電気双極子モーメントの小さい順(p-、m-、o-)に溶出します。

● 分析例 : クレゾール位置異性体
- PFP カラムは、双極子 - 双極子相互作用の効果により、ほかの固定相では分離困難な物質を分離できることがあります。PFP カラムは、クレゾールの位置異性体を分離できる数少ないカラムです。

Conditions | |||
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Column size | 4.6 mm I.D. × 150 mm | Sample | ![]() |
Mobile phase | PFP、C18-MS-Ⅱ : Methanol / H2O = 30 / 70 PBr : Methanol / H2O = 40 / 60 |
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Flow rate | 1.0 mL/min | ||
Temperature | 30℃ | ||
Detection | UV 254 nm |
PBr カラム : 分散相互作用による保持を示す
- ペンタブロモフェニル基の臭素原子はふっ素原子のように大きな双極子 - 双極子相互作用を示しませんが、代わりに大きな分極率による分散相互作用を示します。
- 臭素やよう素といった重ハロゲン原子はハロゲン結合*という特異的な相互作用を示すことが知られており、これも特徴的な保持に関与している可能性があります。
- 分散相互作用やハロゲン結合は、分極率の大きな原子やπ電子、酸素原子や窒素原子との分子間力として働きます。そのため、PBr カラムは疎水性の低い親水性化合物を保持することができ、特徴的な分離特性を示します。
*Kolář M. H. et al. Chem. Rev. 2016;116(9):5155-5187.

疎水性相互作用が働かない条件での分離 : ハロゲン結合の影響

Conditions | |||
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Column size | 4.6 mm I.D. × 150 mm | Sample | ![]() |
Mobile phase | n-Hexane | ||
Flow rate | 1.0 mL/min | ||
Temperature | 30℃ | ||
Detection | UV 254 nm |
疎水性のヘキサンを移動相としてヘキサハロベンゼン 3 種を測定しました。PBr カラムは疎水性相互作用が働かない移動相条件でも重ハロゲン原子を含む分子を強く保持しました。

● 分析例 : 核酸代謝物
- PBr カラムは親水性化合物の分離・分析に効果的です。臭素原子の分散相互作用およびハロゲン結合が働いていると考えられます。

Conditions | |||
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Column size | 4.6 mm I.D. × 150 mm | Sample | ![]() |
Mobile phase | Methanol / H2O / Formic Acid = 10 / 90 / 0.1 | ||
Flow rate | 1.0 mL/min | ||
Temperature | 30℃ | ||
Detection | UV 240 nm |
PFP カラム・PBr カラムの相違点 : 相互作用の差による保持の違い
- C18 カラムでは分離困難だった -Br、-SF5 は、PFP、PBr カラムのどちらを使っても分離が可能ですが、溶出順序は大きく異なりました。これまで紹介したとおり、カラムとサンプル間に働いている相互作用が異なるためです。
- PFP カラムでは含ふっ素化合物との特異的な相互作用により -CF3、-SF5 を、PBr カラムでは重ハロゲン原子との分散相互作用により -Br、-I を強く保持しました。

Conditions | |||
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Column size | 4.6 mm I.D. × 150 mm | Sample | ![]() |
Mobile phase | C18-MS-Ⅱ, PBr : Methanol / H2O = 70 / 30 PFP : Methanol / H2O = 60 / 40 |
||
Flow rate | 1.0 mL/min | ||
Temperature | 30℃ | ||
Detection | UV 254 nm |
PFP カラムと PBr カラムは分離に寄与する相互作用の種類が異なるため、達成される分離も大きく異なります。分析対象に合わせたカラムを選択しましょう。
参考文献
- コスモシール PBr を用いたニコチンアミド代謝物の分析
1)Ozaki M. et al. Analytical Biochemistry. 2022;655:114837.
DOI : https://doi.org/10.1016/j.ab.2022.114837
2)Ozaki M. et al. MethodsX. 2023;10:102061.(Open Access)
DOI : https://doi.org/10.1016/j.mex.2023.102061
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