ナカライテスク株式会社

クロマトグラフィー

光学分割ラベル化剤 L-FDVDA

COSMOSIL PBr カラムでの、食肉中のイミダゾールジペプチドとその構成アミノ酸、タウリンの一斉分析

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はじめに

食肉に豊富に含まれているイミダゾールジペプチド(IDPs)とその構成アミノ酸、栄養成分であるタウリン(Tau)を光学分割ラベル化剤 L-FDVDA でラベル化(誘導体化)することによって、コスモシール 3PBr カラムを用いて、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)により分離・定量することができましたので、紹介します。本研究成果は、Journal of Agricultural and Food Chemistry. 2024;72:27538-27548 に掲載されています。本研究は株式会社 栄養・病理学研究所 川瀬 貴博 氏、名古屋女子大学 健康栄養学部 辻 愛 講師、京都大学大学院 薬学研究科 掛谷 秀昭 教授と倉永 健史 特任講師、京都大学大学院 農学研究科 友永 省三 助教との共同研究成果です。

IDPs について

IDPs は、イミダゾール基をもつヒスチジンが結合したジペプチドの総称であり、カルノシン(Car)やアンセリン(Ans)、バレニン(Bal)などがあります。動物種により組織中の IDPs 構成比と含有量は大きく異なっており、さまざまな動物種の筋肉組織に多く含まれていることが知られています。また、IDPs には抗酸化作用や抗疲労作用など、さまざまな機能を有することが報告されています。食肉中の IDPs とその構成アミノ酸、関連化合物の体内動態や機能、代謝メカニズムを理解するためには、これらを一斉に分析する技術の確立が求められます(図 1)。

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図 1. IDPs とその構成アミノ酸、Tau の構造

一般的に複数の化合物の一斉分析には、逆相液体クロマトグラフィーによる HPLC(RP-HPLC)が使用されますが、IDPs やアミノ酸のような親水性が高い化合物に対しては保持を示さず、分析することが困難です。弊社ではこれまでに、ペンタブロモベンジル基を修飾した PBr カラムを開発し(図 2)、RP-HPLC で親水性化合物に対して高い保持を示すことを明らかにしています。また、LC-MS で高感度検出することが可能なラベル化剤 L-FDVDA を用いることで(図 2)、分離することが難しいさまざまなアミノ酸やペプチドの分離とその高感度検出に成功しています。本研究では、L-FDVDA でラベル化した後、PBr カラムを用いて、動物種・組織・品種の異なるさまざまな食肉中の IDPs とその構成アミノ酸、栄養成分である Tau の含有量を LC-MS で一斉に分析する手法の確立を試みました。

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図 2. 高感度光学分割ラベル化剤 L-FDVDA と PBr カラムの固定相の構造

食肉の前処理

食肉には多量のタンパク質や脂質などの成分が含まれています。タンパク質や脂質はカラムに吸着しやすいため、HPLC で分析する際には、前処理によりこれら夾雑物を除去する必要があります。

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関連動画 1) を参考にしてください。

図 3. 食肉の前処理方法

エタノールとクロロホルムを用いた液 - 液抽出により、食肉中の夾雑物を除去しました。IDPs とその構成アミノ酸、Tau の抽出効率を上げるために、抽出処理を 3 回行っています。内部標準は 2 mg/mL ノルバリン(Norval)を使用しています。

L-FDVDA を用いた IDPs とその構成アミノ酸、Tau のラベル化

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関連動画 2) を参考にしてください。※動画ではラベル化時間が 2 時間となっていますが、本分析系では 1 時間で実施してください。

図 4. L-FDVDA を用いた IDPs とその構成アミノ酸、Tau のラベル化方法

PBr カラムを用いた L-FDVDA でラベル化した IDPs とその構成アミノ酸、Tau の一斉分離

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LC conditions
Column COSMOSIL 3PBr 3.0 mm I.D. × 150 mm
Mobile phase A : 0.1% Formic Acid - Acetonitrile / H2O = 20 / 80
B : 0.1% Formic Acid - Acetonitrile / H2O = 60 / 40
B conc. 7.5 → 7.5 → 50%(0 → 10 → 35 min)
Flow rate 0.4 mL/min
Temperature 40℃
MS conditions
Ionization ESI/APCI(positive mode)
Mode SIM
Nebrizing gas flow 2.0 L/min
Drying gas flow 5.0 L/min
Heating gas flow 7.0 L/min 
DL temperature 200℃
Desolvation temperature 450℃
Interface voltage 3.0 kV

図 5. L-FDVDA でラベル化した IDPs とその構成アミノ酸、Tau の HPLC と LC-MS クロマトグラム

L-FDVDA でラベル化した後、PBr カラムを用いることで、HPLC および LC-MS で Oxo-Car を含めた 5 種類の IDPs とその構成アミノ酸、Tau を一斉分離することができました。また、本ラベル化剤は不斉炭素を有しているため、His と Car のエナンチオマー(DL-His と DL-Car)も分離することができます。

ラベル化した各成分の検量線の範囲および定量下限値(LOQ)

本研究では、各標準サンプルを実サンプルと同様の前処理を行い、L-FDVDA でラベル化した後、LC-MS で分析を行いました。 検量線は得られた各成分のピーク面積値を内部標準物質である Norval のピーク面積値で補正することで作成しました。

表 1. 各成分の検量線の範囲とR2、LOQ

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LC conditions
Column COSMOSIL 3PBr 3.0 mm I.D. × 150 mm
Mobile phase A : 0.1% Formic Acid - Acetonitrile / H2O = 20 / 80
B : 0.1% Formic Acid - Acetonitrile / H2O = 60 / 40
B conc. 7.5 → 7.5 → 50%(0 → 10 → 35 min)
Flow rate 0.4 mL/min
Temperature 40℃
Inj. Vol. 0.3 μL(Car, Ans Tau)and 5 μL(others)
MS conditions
Ionization ESI/APCI (positive mode)
Mode SIM
Nebrizing gas flow 2.0 L/min
Drying gas flow 5.0 L/min
Heating gas flow 7.0 L/min 
DL temperature 200℃
Desolvation temperature 450℃
Interface voltage 3.0 kV

※ 各成分の濃度は 400 µL の標準サンプルに、エタノール 3.6 mL を添加した後の濃度で計算しています。

内部標準物質である Norval で補正することにより、全ての成分で R2 = > 0.99 の検量線を作成することができました。本研究では、食肉中の各成分の抽出効率を上げるために、抽出処理を 3 回行っています。血漿や組織などの生体サンプルにおいては、複数回の抽出操作は不要であるため、検出感度(LOQ)はさらに向上すると考えられます。

動物種・組織・品種の異なるさまざまな食肉中の IDPs とその構成アミノ酸、Tau 含有量

動物種(牛肉、豚肉、鶏肉)、組織(ムネ肉、モモ肉、ササミ)、品種(ブロイラー、名古屋コーチン、比内地鶏)の異なるさまざまな食肉中の IDPs とその構成アミノ酸、Tau 含有量(mg/100 g)を定量しました。

表 2. 動物種・組織・品種の異なる食肉中の IDPs とその構成アミノ酸、Tau 含有量(N = 5)

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図 6. 動物種・組織・品種の異なる食肉中の IDPs と Tau 含有量(N = 5)

構成アミノ酸はいずれの食肉においても数 mg 程度/100 g でした。一方、IDPs は数百 ~ 数千 mg、Tau は数十 ~ 数百 mg であり、食肉によって含有量に顕著な差がありました。IDPs 含有量について、動物種で比較すると、牛肉と豚肉では Car の含有量が最も高く、鶏肉では Ans の含有量が最も高いことが示されました。組織ではムネ肉 > ササミ > モモ肉の順に IDPs 含有量が高く、品種ではブロイラーよりもブランド鶏の方が高いことが示されました。Tau は動物種では牛肉 > 豚肉 > 鶏肉、組織ではモモ肉 > ササミ > ムネ肉の順に含有量が高いことが示されましたが、品種間では差はありませんでした。

動物種・組織・品種の異なる食肉中の IDPs の総含有量

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図 7. 動物種・組織・品種の異なる食肉中の IDPs の総含有量

IDPs の総含有量は動物種では、鶏肉 > 豚肉 > 牛肉の順に高いことが分かりました。最も IDPs 含有量が高かった鶏肉において、組織ではムネ肉 > ササミ > モモ肉の順に高いことが分かりました。品種においては、ブロイラーと比較してブランド鶏の方が IDPs の総含有量は高いことが示されました。全ての食肉サンプルにおいて、IDPs(Car と Ans、Bal)と Tau は相対標準偏差(RSD)< 15% で精度よく分析できました(Nτ-Me-His のみ一部の食肉サンプルで RSD > 15% となりました)。また、本研究で使用している高感度光学分割ラベル化剤 L-FDVDA は分子内に不斉炭素を有しているため、IDPs とその構成アミノ酸、Tau だけでなく、DL- アミノ酸も分析することが可能です。ほかの分析例の詳細は以下の参考文献をご参照ください。

参考文献

  • 全アミノ酪酸の構造異性体と鏡像異性体の一斉分析
    1)Ozaki M, Shimotsuma M, Kuranaga T, Kakeya H, Hirose T. Anal. Methods. 2023;15:6648-6655.
    DOI : https://doi.org/10.1039/D3AY01665J
    ※Featured on Front Cover
  • イソロイシンの立体異性体(DL-Ile と DL-allo-Ile)の分離
    2)Ozaki M, Shimotsuma M, Kuranaga T, Kakeya H, Hirose T. Chem. Pharm. Bull. 2023;71:824-831.
    DOI : https://doi.org/10.1248/cpb.c23-00439

関連動画

1)食肉中に含まれるイミダゾールジペプチドの分析 ~実サンプルの前処理方法~

2)光学分割ラベル化剤 L-FDVDA を用いたアミノ酸のラベル化

価格表

本研究で使用した製品

製品名 毒劇物 メーカー / 規格 製品番号 容量 / サイズ 内径 × 長さ(mm) オンライン
カタログへ
L-カルノシン GR 22496-21 1 g e-Nacalai.jpg
L-アンセリン GR 22533-92 25 mg e-Nacalai.jpg
L-バレニン GR 22491-42 25 mg e-Nacalai.jpg
L-2-オキソカルノシ GR 22492-32 25 mg e-Nacalai.jpg
1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-バリン-N,N-ジメチルエチレンジアミンアミド(L-FDVDA) SP
(高速液体クロマトグラフ用)
20363-24 50 mg e-Nacalai.jpg
コスモシール 3PBr パックドカラム 19352-91 3.0 mm I.D. × 150 mm e-Nacalai.jpg
反応開始液(DL-アミノ酸ラベル化キット構成品) 22191-14 10 mL e-Nacalai.jpg
脱ラベル化溶液(側鎖用)(DL-アミノ酸ラベル化キット構成品) 22192-04 10 mL e-Nacalai.jpg
反応停止液(DL-アミノ酸ラベル化キット構成品) 22193-94 10 mL e-Nacalai.jpg
ぎ酸 08965-82 25 mL e-Nacalai.jpg
クロロホルム 08426-71 1 L e-Nacalai.jpg
エタノール 14741-41 1 L e-Nacalai.jpg
アセトニトリル 00430-41 1 L e-Nacalai.jpg
TORAST Vial 8-425 スクリューバイアル 島津ジーエルシー GLCTV-801 100 本/箱 e-Nacalai.jpg
TORAST Vial 8-425 セプタム 島津ジーエルシー GLCTV-807 100 個 e-Nacalai.jpg

COSMOSIL / コスモシールはナカライテスク株式会社の登録商標です。
TORAST は株式会社島津ジーエルシーの登録商標です。

関連製品

L-FDVDA (1-Fluoro-2,4-dinitrophenyl-5-L-valine-N,N-dimethylethylenediamineamide)

※掲載内容は予告なく変更になる場合があります。