クロマトグラフィー
発酵食品・飲料中の DL-アミノ酸の一斉分析
はじめに
発酵食品・飲料中の DL-アミノ酸を DL-アミノ酸ラベル化キット(ラベル化剤 : D-FDLDA)でラベル化(誘導体化)することで、コスモコア 2.6C18 カラムを用いて、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)により分離・定量することができましたので、紹介します。本研究成果は、Journal of Chromatography B. 2024;1244:124239. に掲載されています。本研究は大陽日酸株式会社と京都大学大学院 薬学研究科 創発医薬科学専攻 システムケモセラピー・制御分子学分野との共同研究成果です。
DL-アミノ酸分析の現状と実験の概要
生体内に存在するアミノ酸の大部分は L 体ですが、近年の分析技術の進展に伴い、D 体のアミノ酸も生体内に存在し、さまざまな機能を担うことが明らかにされてきました。食品においても、さまざまな味を示すアミノ酸が含まれており、その種類と含有量によって、食品の味は大きく変化します。D-アミノ酸は L-アミノ酸とは異なり、強い甘味を示すことから、食品添加物として使用されている例もあり、DL-アミノ酸の含有量を分析する技術の確立が求められています。一般的に、DL-アミノ酸の HPLC 分析には高価なキラルカラムが用いられますが、分離度が低いことに加えて、2 級アミンを有するプロリン(Pro)を分離できないといった問題もあります。弊社の DL-アミノ酸ラベル化キットを用いてラベル化することによって、DL-Pro やスレオニン(Thr)の立体異性体(DL-Thr と DL-allo-Thr)を含めた 20 種類のアミノ酸を、汎用される C18 カラムで分離することが可能です(図 1)。そこで、D-アミノ酸の含有量が多い発酵食品・飲料をメタノールとクロロホルムを用いた液-液抽出で前処理した後(図 2)、DL-アミノ酸ラベル化キットを用いてラベル化し(図 3)、DL-アミノ酸の含有量を LC-MS 分析により分離・定量しました(表 1 ~ 3)。

LC conditions | |
---|---|
Column | COSMOCORE 2.6C18 2.1 mm I.D. × 100 mm |
Mobile phase | A : 0.1% Formic Acid - Acetonitrile / H2O = 10 / 90 B : 0.1% Formic Acid - Acetonitrile / H2O = 50 / 50 B conc. 0 → 10 → 60 → 100%(0 → 5 → 30 → 35 min) |
Flow rate | 0.4 mL/min |
Temperature | 40℃ |
MS conditions | |
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Ionization | ESI/APCI (positive mode) |
Mode | SIM |
Nebrizing gas flow | 2.0 L/min |
Drying gas flow | 5.0 L/min |
Heating gas flow | 7.0 L/min |
DL temperature | 200℃ |
Desolvation temperature | 450℃ |
Interface voltage | 3.0 kV |
図 1. DL-アミノ酸ラベル化キットでラベル化した DL-アミノ酸を C18 カラムを用いて分析した LC-MS クロマトグラム
発酵食品・飲料の前処理
生体サンプルや食品中には多量のタンパク質や脂質などの成分が含まれています。タンパク質や脂質はカラムに吸着しやすいため、HPLC で分析する際には、前処理によりこれらの夾雑物を除去する必要があります。 (関連動画 1 を参考にしてください。)

図 2. 発酵食品・飲料の前処理方法
メタノールとクロロホルムを用いた液- 液抽出により、発酵食品・飲料中の夾雑物を除去することができます。
DL-アミノ酸ラベル化キットを用いた DL-アミノ酸のラベル化
(関連動画 2 を参考にしてください。)

図 3. DL-アミノ酸ラベル化キットを用いた DL-アミノ酸のラベル化
黒酢・純米酢中の DL-アミノ酸の含有量
表 1. DL-アミノ酸ラベル化キットでラベル化した黒酢・純米酢中の各 DL-アミノ酸の定量値

純米酢(#05 と#06)よりも黒酢(#01 ~ #04)の方が D-アミノ酸、L-アミノ酸ともに含有量が多いことが示されました。また、製造方法や醸造年数によって、黒酢中の D-アミノ酸の含有量が異なっていることが示されました。
清酒中の DL-アミノ酸の含有量
表 2. DL-アミノ酸ラベル化キットでラベル化した清酒中の各 DL-アミノ酸の定量値

生酛・山廃造りの清酒(#08 ~ #11)は普通酒(#07)と比較して、D-アミノ酸含有量が高いことが示されました。
乳発酵飲料中の DL-アミノ酸の含有量
表 3. DL-アミノ酸ラベル化キットでラベル化した乳発酵飲料中の各 DL-アミノ酸の定量値

全ての乳発酵飲料(#12 ~ #17)において、黒酢・純米酢、清酒と比較して、L-アミノ酸の含有量は低い値を示しました。しかしながら、D-アミノ酸含有量は多くの乳発酵飲料において、高い値を示しました。
各発酵食品・飲料中の総アミノ酸含有量と D/L 比
各発酵食品・飲料を分析して得られた各 DL-アミノ酸の定量値を基に、総アミノ酸含有量および D/L 比を算出しました。

図 4. 各発酵食品・飲料中の総アミノ酸含有量と D/L 比
総アミノ酸含有量は黒酢 > 清酒 > 純米酢 > 乳発酵飲料の順に、また D/L 比は乳発酵飲料 > 黒酢 > 純米酢 > 清酒の順に高いことが示されました。
ラベル化したサンプルの長期安定性
ラベル化した直後のサンプルを HPLC で分析し、得られたピーク面積の値を基準に、1 日後と 7 日後のピーク面積の値からサンプルの安定性を以下の方法で評価しました。

図 5. ラベル化した各アミノ酸の 1 日後と 7 日後の安定性
評価方法
ラベル化した直後のサンプルを分析した後、4ºC で冷蔵保存し、1 日後と7 日後に分析
安定性 =(1 or 7 日後に分析して得られたピーク面積値)/(ラベル化後に分析して得られたピーク面積値)× 100
その結果、1 日後と 7 日後ともにピーク面積値は減少していないことが確認されました(図 5)。本結果から、ラベル化したサンプルは冷蔵(4℃)で長期間保存可能であることが示されました。
参考文献
- 発酵食品・飲料中の DL-アミノ酸の一斉分析
1)Journal of Chromatography B. 2024;1244:124239.
DOI : https://doi.org/10.1016/j.jchromb.2024.124239 - アミロイドβ中のAsp 残基のラセミ化・異性化の同定
2)Analyst. 2023;148:1209-1213.
DOI : https://doi.org/10.1039/D2AN01885C
※ Selected as HOT Article 2023 and featured on front cover - ペプチド中のエピメリ化したアミノ酸の同定
3)Analytical and Bioanalytical Chemistry. 2022;414:4039-4046.
DOI : https://doi.org/10.1007/s00216-022-04048-w
関連動画
1)DL-アミノ酸ラベル化キットを用いた食品中のアミノ酸分析 ~実サンプルの前処理方法~
2)DL-アミノ酸ラベル化キットを用いたアミノ酸のラベル化
価格表
本研究で使用した製品
COSMOSIL / コスモシール、COSMOCORE / コスモコアはナカライテスク株式会社の登録商標です。
TORAST は株式会社島津ジーエルシーの登録商標です。
関連製品
※掲載内容は予告なく変更になる場合があります。