LifeSensors社 SUMOタグ発現システム
LifeSensors社より販売のユビキチン様タンパク質を利用したSUMOタグ発現システムを紹介します。このシステムでは、SUMOタグのシャペロン様の性質とタグの切断に使用されるSUMOタグプロテアーゼの性質により、ネイティブに近い性質の可溶性タンパク質を高効率で発現することが可能です。
注)目的タンパク質のN末端側にプロリンを持つタンパク質の場合、SUMOプロテアーゼを使用することができません。
特長
- 可溶性タンパク質の発現が可能
- SUMOプロテアーゼは立体構造を認識するので、正確かつ迅速にタグを切断
- ネイティブなアミノ酸配列を持つタンパク質の発現が可能
性能比較例
SUMOタグを用いた可溶性タンパク質の発現
SUMOはフォールディングしやすい性質を持ち、SUMOの性質により目的タンパク質もともに正確な立体構造を形成することで、可溶性タンパク質の発現を促進すると考えられています。
各種タグ融合タンパク質との可溶性発現の比較
LB培地で大腸菌を培養後、ペレットを回収し、緩衝液を添加しソニケーション処理を行ったサンプル(UN:IPTG非誘導およびIN:IPTG誘導)、ソニケーション後に遠心した上清(S:可溶性画分)とペレット(IB:不溶性画分)を電気泳動しCBB染色を行った。結果として、他のタグ融合タンパク質と比較し、SUMOタグ融合タンパク質が、可溶性画分に高効率で発現していることが示されています。
使用したタグ:His6, Ub(ubiquitin), SUMO, MBP(maltose binding protein), GST(glutathione S-transferase),TRX(Thioredoxin), NUS A
SUMOタグの性質
タグ切断プロテアーゼの切断が正確
SUMOタグ融合タンパク質のタグを切断するプロテアーゼ(SUMOプロテアーゼ)は、SUMOの立体構造を認識し切断します。従って、N末端側に不要なアミノ酸が残らずネイティブなタンパク質の作製が可能です。また目的タンパク質の内部配列が切断される心配はありません。
SUMOプロテアーゼの特長
*ベクター番号7("製品ラインアップ1.発現系"を参照)は、Hisタグの上流側にDYKDDDDKタグがあります。
製品ラインアップ
1.発現系
本発現システムでは、以下の発現系に適合する発現ベクターおよびキットを販売しています。また、SUMOタグの種類は、3種類用意(使い分けは、 "2.SUMOタグの種類"をご参照ください)されており、それぞれのタグに応じた適切なプロテアーゼが用意されています。
発現の 宿主 | プロモーター | 選択マーカー | SUMO タグの 種類*2 | 分泌 シグナル | SUMO プロテアーゼの 種類*3 | 価格表 対応番号*1 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
大腸菌 | 宿主 | ||||||
大腸菌 | T7 | Amp | SUMO | SUMO Protease 1 |
1 | ||
Kan | 2 | ||||||
Amp | hSUMO3 | SUMO Protease 2 |
3 | ||||
Kan | 4 | ||||||
Amp | SUMOstar | SUMOstar Protease |
5 | ||||
Kan | 6 | ||||||
酵母 (P.pastoris) |
AOX1 | Amp | Zeocin™ | hSUMO3 | + | SUMO Protease 2 |
7 |
Zeocin™ | SUMOstar | SUMOstar Protease |
8 |
||||
酵母 (S.cerevisiae) |
CUP1 | Amp | Trp | 9 | |||
昆虫細胞 | Polh |
- |
+ |
10 | |||
11 | |||||||
哺乳類細胞 | CMV | Neomycin | + | 12 | |||
13 |
*1:価格表に対応するようにベクターを番号付けしています。
ベクターの詳細は、下記の"4.発現ベクターマップ"をご参照ください。
*2:SUMOタグの種類の詳細は、下記の"2.SUMOタグの種類"をご参照ください。
*3:SUMOプロテアーゼの種類については、下記の"3.SUMOプロテアーゼの種類"をご参照ください。
2.SUMOタグの種類
SUMOタグは以下の3種類用意されており、発現系や目的タンパク質の性質により、使い分けしてください。本タンパク質のN末端にはHisタグが付加されており、切断後のSUMOタグの除去が簡単に行えます。
SUMOタグの種類 | 由来 | 使い分け |
---|---|---|
SUMO | 酵母 | ・大腸菌発現システムのみ適応 |
hSUMO3 | ヒト | ・大腸菌、酵母(P.pastoris)発現システムに適応 |
SUMOstar | 遺伝子改変SUMO |
・大腸菌発現、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞の発現システムに適応 |
3.SUMOプロテアーゼの種類
LifeSensors社では、切断するSUMOタグに応じて、3種類のSUMOプロテアーゼを用意しています。各プロテアーゼは、非常に高効率で SUMOタグ融合タンパク質からSUMOタグを正確に切断します。また、N末端側にはHisタグが付加されており、切断に使用したプロテアーゼの除去が簡単に行えます。
プロテアーゼ | 切断する SUMOタグ | 活性の定義 | 至適pH/至適温度 |
---|---|---|---|
SUMO Protease 1 | SUMO | 各製品は、基質となる各SUMOタグ-GFPタンパク質を 37℃、1時間の条件下、1unitで90µg以上切断します。 | 至適pH:5.5~9.5 至適温度:30℃* |
SUMO Protease 2 | hSUMO3 | ||
SUMOstar Protease | SUMOstar |
純度:95%以上 / 形態:液体 / 比活性:1 x 105U/mg以上
*本酵素は上記至適条件以外にさまざまなpH、塩濃度、低温条件(4℃)下でも切断可能です。詳細は以下の文献をご参照ください。
Journal of Structural and Functional Genomics 5, 75-86, 2004.
4.発現ベクターマップ
例)大腸菌発現ベクター
- ベクターは、特定の制限酵素により処理する必要があります。大腸菌発現ベクターの場合、BsaⅠによる処理が必要です。
本制限酵素処理により、ACCTの粘着末端とXbaⅠで消化した場合に形成される粘着末端と同じCTAGの粘着末端が形成されます。このBsaⅠによる処理後に、必要に応じてSacⅠ、Sal Ⅰ、HindⅢなどの制限酵素サイトを利用することも可能です。 - その他の発現ベクターのマップ等の詳細な情報はメーカーWeb site(https://www.lifesensors.com/expression-systems/)でご確認ください。
使用方法
リンカー配列は不要で、目的の配列を付属のベクターにクローニング後、ターゲットタンパク質を発現。
使用方法高発現するターゲットタンパク質をNi-カラムにて精製。
カラムから溶出させたターゲットタンパク質をSUMOプロテアーゼで切断。
切断後のサンプルを再度、Ni-カラムに添加。プロテアーゼとSUMOタグは、 Hisタグにより吸着、ターゲットタンパク質のみ溶出。
使用例
国内研究者使用例"SUMOstarタグを用いた転写因子の発現"
データご提供:大阪大学 研究者様
実験概要
SUMOstarタグの発現量に与える影響をGSTタグと比較するために、転写因子TF-AおよびTF-Bを、IPTGによる誘導の有無によりそれぞれ大腸菌で発現させた。
大腸菌株:Rosetta™ 2(DE3) , Novagen
培地(本培養):2×YT培地(25℃で培養)
IPTG添加後の培養時間:3時間
Rosetta™はMerck KGaAの商標です。
実験結果
UN:Uninduced
IN:IPTG-induced
S:Soluble
IS:Insoluble
B:Resin-bound
使用者の評価
SUMOタグを付加した場合、GSTタグに比べて、多くの場合で可溶性タンパク質がより多く発現される傾向であるので、タグの選択肢の第一候補となり得る。
1.抗原タンパク質(rPA)の発現精製
1. マーカー
2. IMAC(一回目)溶出
3. HIC 添加サンプル(2と同じ)
4. HIC 溶出
5. SUMOプロテアーゼ処理
6. IMAC(二回目)添加サンプル
7. IMAC(二回目)フロースルー
8. IMAC(二回目)溶出
9. Blank
10. IMAC(二回目)フロースルー×2
タグの無い抗原rPAが得られた(レーン7、10)
昆虫細胞発現系での可溶化タンパク質の高発現
分泌タンパク質におけるSUMOstarの効果を試験するために、分泌シグナルgp67を持つtryptaseとSUMOstar-tryptase発現用バキュロウイルスをSf9昆虫細胞に感染させた。培地を回収しSDS-PAGEを行った後、CBB染色により検出した。これらのデータから、SUMOstarタグは分泌型のtryptaseの発現を促進することが示されました。
哺乳類細胞発現系での使用例
左図)分泌型の哺乳類細胞発現系により、GzmB(GranzymeB)を発現させた後、培地を回収し、電気泳動後、GzmBに対する抗体を用いて検出しました。その結果、SUMOタグを付加した場合、6xHisタグのみの場合と比較し、GzmBの発現が促進されていることが示されています。
サンプル:各サンプルを2レーンずつ泳動
右図)分泌型の哺乳類細胞発現系により、マウス由来のPLA2を発現させた後、培地を回収し、電気泳動後、Hisタグ抗体を用いて検出しました。その結果、SUMOstarタグを付加した場合、6xHisタグのみの場合と比較し、発現が促進されていることが示されています。
キット内容
LifeSensors社では、発現ベクター、SUMOプロテアーゼ、SUMOタグ抗体などを一纏めにしたキットを販売しています。
- 発現ベクター
- SUMOプロテアーゼ
- SUMOタグ抗体
- コントロールタンパク質(SUMO-GFP)
価格表
*価格表に掲載のベクターの詳細は、"製品ラインアップ1.発現系"をご参照ください。
<商標について>
SUMOpro®、SUMOpro-3®は、LifeSensorsの登録商標です。SUMOstar™は、LifeSensorsの商標です。
※掲載の内容は、'17年12月現在の情報に基づいております。